「NZのことはなぜニュースなの?」
「ちょっと、ニュージーランドのことは、なぜニュースなの?」
そのデスクの質問を聞いて、何を聞こうとしているのか理解できなくて、数秒の沈黙が続いた。
同じ報道セクションにもたくさんの部門がある。ニュースに対する理解は部によって違っていたり、どのぐらいの重要度を持つのかの判断が異なっていたりするのは常である。しかし50人もの命を奪った白人至上主義者によるテロ事件の翌日に、そのニュース価値を疑うのはなかなかの衝撃だった。
その疑いの理由は、日本の報道機関で仕事をするとよく聞くものだろう。「日本と遠いんだよね」と。
イエローモンキーはこう叫んだ。「ニュースキャスターは嬉しそうに、乗客に日本人はいませんでした、いませんでした」と。
世界中でどんなに大きな事件や事故が起きても、まずは現地の日本大使館に連絡を取り、「日本人が巻き込まれたかどうか」を確認する。原稿にも必ずその情報を入れる。
メディアとしては当然だ。メディアは国民国家や民族を基盤にしていて、メディアとはナショナリズムの具現化であり、ときにはその最大の表現者でもある。
それにしてもだ。
日本のテレビばかり見ていると、世界のことがまったくわからなくなるのだ。あまりにも内向きの報道ばかりで、この島国に直接な関係がなければまるでニュースではない。パレスチナもイスラエルも、インドもパキスタンも、ナイジェリアもコンゴも、ベネズエラもキューバも、この国に直接関係がないからニュースではない。何人死んでも、世界にどんな影響を与えてもだ。
おかしなことだ。日本で報道の仕事に就いてるいまよりも、母国で高校に通っていた頃のほうが、国際情勢にずっと詳しかったのだ。
少子高齢化、外国人労働者、観光立国、安全保障…本当に国際ニュースと無縁なのだろうか。
「ニュージーランドのことはなぜニュースなの?」そのデスクの頭を思いっきり叩くと同時に、「日本はもう世界から隔絶したアイランドではない。この時代を甘く見るんじゃないよ、ボケ!」と言いたい。